マル暴として知られる暴力団対策部門の警察官が、逮捕されることは実際にある。
「警察官なのだから逮捕されない」ということは当然なく、犯罪の疑いがあれば、一般の公務員と同じように刑事責任を問われる。
むしろマル暴の場合、捜査対象が暴力団や犯罪グループであるため、捜査情報の漏洩、収賄、不適切な交際、証拠の扱いなどが重大な問題になりやすい。
実際にマル暴の警察官が逮捕された事例
近年でも非常に象徴的なのが、警視庁の暴力団対策課に所属していた警部補が、捜査情報を漏らした疑いで逮捕された事件だ。
2025年11月、警視庁暴力団対策課の警部補が、捜査対象となっていたスカウトグループ側に捜査情報を漏らした疑いで逮捕されたと報じられている。
報道によれば、警部補は暴力団捜査を担当していた経験があり、捜査対象との接点を持つ立場にあった。
マル暴の仕事では、捜査対象者から情報を得るために、一定の接触が必要になる。
ここが一般的な刑事捜査との大きな違いだ。
捜査対象者と完全に接触を断つのではなく、相手の人間関係や資金の流れ、組織内部の情報などを把握する必要がある。
その距離の近さが、捜査上の武器になる一方で、内部不正のリスクにもつながる。
大阪府警の捜査4課でも警察官が起訴された
さらに2025年には、大阪府警捜査4課の警察官による事件も大きく報道された。
家宅捜索の際、捜査対象者に暴行したとして、複数の警察官が逮捕・起訴された。
報道によると、警部補と巡査部長が逮捕・起訴され、その後、ほかの警察官も在宅起訴された。
さらに、暴行の様子を記録したカメラ映像を巡っても問題が発生し、大阪府警は多数の関係者を処分している。
この事件は「マル暴だから逮捕された」という単純な話ではない。
重要なのは、暴力団などを取り締まる側の警察官であっても、捜査活動の範囲を逸脱すれば、捜査対象者から逆に刑事事件の被疑者となり得るという点だ。
マル暴が逮捕される原因は何か
典型的なのは、捜査情報の漏洩だ。
マル暴が扱う情報には、内偵捜査の対象者、捜索予定、逮捕方針、協力者に関する情報など、極めて機密性の高いものが含まれる。
こうした情報を捜査対象者側に流せば、単なる職務上のミスでは済まない。
状況によっては地方公務員法上の守秘義務違反など、刑事責任につながる。
実際、警視庁の暴力団対策課所属警部補の情報漏洩事件は、その典型例といえる。
ほかにも、賄賂、証拠隠滅、虚偽の捜査書類作成、捜査対象者への暴行などが問題になる。
愛知県警捜査4課でも、暴力団関係事件の捜査をめぐり、虚偽内容の供述調書を作成したなどとして警部補らが書類送検された事例がある。2026年5月には不起訴処分となったと報じられている。
「ミイラ取りがミイラになる」という危険
マル暴の仕事を考えるうえで興味深いのが、捜査対象者との距離だ。
普通のイメージでは、警察官と犯罪者は完全に対立する存在に見える。
しかし、組織犯罪の捜査では、相手と会って話を聞いたり、情報源から情報を集めたりすることがある。
つまり、捜査能力が高い警察官ほど、犯罪組織の人間関係や考え方を深く理解する必要がある。
その過程で、金銭や人間関係などを通じて取り込まれる危険が生じる。
実際、過去には暴力団への潜入捜査を行った元警察官が、活動中の違法行為に関与して逮捕され、有罪判決を受けた例も報じられている。
これはマル暴という仕事の難しさを考えるうえで、かなり重要なポイントだ。
元マル暴だから安全というわけでもない
さらに興味深いのは、現役時代の人間関係が、異動後も問題になるケースがあることだ。
福岡県警の捜査4課に勤務していた警察官が、暴力団側から現金を受け取って捜査情報を提供していたことが、裁判記録から確認できる。
福岡地方裁判所の判決では、暴力団側が警察官に現金を渡し、捜査情報を入手していた経緯が認定されている。
マル暴にとって「誰と付き合うか」は、一般的な刑事以上に重要な問題になる。
マル暴が逮捕されることは珍しいが、ゼロではない
マル暴の警察官が逮捕されるケースは、もちろん日常的に起きるものではない。
しかし、「マル暴は犯罪者を逮捕する側だから、本人が逮捕されることはない」という認識は正しくない。
むしろ、捜査対象者との接触機会が多く、扱う情報の機密性も高いからこそ、内部規律や監察の重要性が高い部門だと考えられる。
個人的にマル暴という職種を調べていて特に印象に残るのは、派手な家宅捜索よりも、この「距離の近さ」の部分だ。
外から見ると、警察と暴力団は完全な対極にある。
ところが実際の捜査現場では、相手を知るために接触しなければならない。
その矛盾こそが、マル暴という仕事の特殊性を表している。
そして一線を越えれば、立場が捜査する側から捜査される側へ変わることもある。
マル暴が逮捕された実例は、その現実をはっきり示している。
